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日本人横綱不在に思う 3組 佐々木 洋  2014.04.30

いきなり尾籠な話で恐縮ですが

 皆さんは外出先などで日本式トイレしかない場合にお困りになってはいませんか?生来、体が硬い上に、膝を悪くしている私などは然るべく腰をおろして身をかがめ蹲居(そんきょ)の姿勢を取るのに足腰の節々が悲鳴を上げるので往生しています。しかし、一昔前までは日本人が日本式トイレを使うのはごく当たり前の話であり、日本式トイレの使用に当たって何の痛痒も感じないというのが普通の日本人の“ビッグベン”のあり方だったと思います。つまり「昔の日本人は毎朝毎朝トイレでオツトメをするたびに足腰を鍛えていた」わけなんですよね。ところが様式トイレが普及するのにしたがって、日本人は足腰の骨を折り曲げて“ビッグベン”をすることがなくなり、結果的に足腰を鍛錬する機会がなくなって日本人の足腰は弱くなってしまいました。このことから、「だから日本人力士も弱くなって日本人横綱が出てこなくなっってしまったのだ」と得意の短絡思考を働かせてしまう私なのですが、日本の大相撲に3横綱鼎立を実現させたモンゴルでは現在でも日本式トイレが使われているそうですから、あながち、この“お便所仮説”も捨てたものではないと思うのですが如何でしょうか。

6大関の明暗を分けたもの

 しかし、この“お便所仮説”の適否は別にして、日本の大相撲界を席巻するモンゴル力士の強さというものは大したものですね。今を去る2年前の3月28日に鶴竜の大関昇進が決定して史上初の6大関体制となってから、まず日馬富士が横綱に昇進し、最新参の鶴竜がこれに次いでしまうのですから。この間に、把瑠都と琴欧洲の東欧勢コンビは怪我を理由に相次いで土俵を去り、これも怪我しがちな稀勢の里と琴奨菊の日本人大関コンビだけが取り残されることとなってしまいました。なにがモンゴル人大関と東欧・日本勢大関の明と暗を分けたのでしょうか。そこで、6大関体制時代に既に横綱になっていた白鵬も考え合わせて私が短絡思考で導き出したのが「モンゴル人横綱足腰鍛錬仮説」でした。

 日本人横綱最有力候補とされてから久しい稀勢の里が四股を踏む姿を見て「こんな不格好な四股では、横綱になったって相当ヒドイ横綱土俵入りしかできないだろうな」と思い、これを「日本人力士は四股や股割りなどで十分足腰を鍛えていないから勝負に弱く怪我もしやすいのだ」とこれも短絡的に考えたのでした。今や「モンゴルに追いつき追い越す」ことが急務なのですから、なんとしてもモンゴル人横綱トリオから足腰鍛錬の方法を学びとらねばなりません。

見逃されやすいアヒルの水掻き
 話は変りますが、2-3週前の日曜朝の情報番組『サンデーモーニング』(TBS系)のなかのスポーツコーナー『週刊御意見番』で、張本勲氏がテニスの錦織圭に思い切り「喝」を入れていました。ご承知の通り、錦織が、米・フロリダ州マイアミでのソニー・オープンで、世界ランカーのフェレールとフェデラーを相次いで破って準決勝に進みながら、股関節痛のため棄権したことに対する「喝」でした。

 「喝」の理由は錦織圭の身体の鍛錬不足で、これには張本氏と共に出演していた金田正一氏も、いつも股割りなどによる股関節の鍛錬を怠らなかったという自身の経験を語りながら賛同していました。私には、溢れる天分だけで日本プロ野球界唯一の400勝投手になったと思われていた御仁がそのような“アヒルの水掻き”の身体の鍛練をしていたということが意外でした。しかし、改めて考えてみると、あのノー天気の代表のように思えていた長嶋茂雄氏も、オフになると修善寺に籠って走り込みをして足腰を鍛え、怪我らしい怪我もせず「記憶に残る」選手生活を全うしています。

 メジャーリーガーになってからも怪我知らずのイチローに至っては、日本とアメリカの両方にある自宅にジムを設けて身体の鍛錬にこれ努めているというではありませんか。「無事これ名馬」と言いますが「鍛錬これ無事」という少々語呂の悪い仮説も並び立つのではないかと思います。そろって、“アヒルの水掻き”の形で身体の“鍛錬”を怠らなかったからこそ、怪我や故障知らずの“無事”であり、“名選手”として活躍し続けることができているからです。かの張本勲氏も、お角違いのテニス選手にトヤカク言えるだけあって、自分自身も日ごろの身体の鍛練を欠かさず、せっせと“アヒルの水掻き”をしていたみたいですよ。それでなければ、強靭な足腰を活かした広角打法によって「安打製造機」という異名を取り、通算安打日本記録(3085本)を樹立するまで「無事これ名選手」であり続けることなんてできっこありませんものね。もっとも、守備についている時はいい加減な「走り」をしていたくせに、いざ内野安打で打率を稼げそうになる時にはシャカリキになって走って結構な俊足ぶりを見せていたなんてところは笑えましたけど。

「世界の王」の「日本の王」への格下げ

 昨年、メジャーリーガーとしては、ほとんど実績ゼロに等しいバレンティンが日本プロ野球シーズン本塁打記録(60本)を打ち立て、これも「無事これ名馬」で連続出場回数歴代3位になりながら「記録に残る」選手になった王貞治氏のシーズン本塁打記録(55本)ばかりでなく、シーズン公式戦通算本塁打“世界”記録(868本)の価値を大幅に引き下げてしまいました。「世界の王」が「日本の王」に格下げされてしまったのですから、日本人のホームラン記録の価値下落の程は、通貨価値下落によって起こった円安など比べ物になりません。メジャーリーガー程の力量のないバレンティン如きの打者にホームランを量産されてしまうのは、一つには、松坂大輔や黒田博樹、ダルビッシュ有、岩隈久志、上原浩治、それに田中マー君などがメジャーリーグに進出したために起こった“国内空洞化”現象による日本プロ野球界の投手力低下が大きな原因になっているのは確かなことでしょう。しかし、昼のTV観戦で150キロ台の剛速球が投げ合われるメジャーリーグのゲームを見た後の夕刻に、“高校球界では一流”の140キロそこそこのボールしか投げ合われない日本のプロ野球の試合をTV観戦していると、日本人投手の身体能力の低下ぶりを痛感せざるをえません。

「速球」から「直球」への球速劣化
 さすがに最近は、TV放送でも日本人投手が投ずる140キロそこそこのボールは「速球」と言わず「直球(ストレート)」と呼ぶようになっています。しかし、かつての日本プロ野球界には、金田正一だけでなく、“神様・仏様・稲尾様”と称され通算276勝を挙げた稲尾和久や、“草魂”という愛称で知られ300勝投手になった鈴木啓示などといった「無事これ名投手」たちをはじめ「速球」を投げ込む投手がザラにいて、「速球」を武器とする投手が「本格派」ないしは「正統派」と称され、球速のない投手は「変則派」、精々「技巧派」呼ばわる存在でしかありませんでした。ところが現在の日本プロ野球は変則派投手のオン・パレード。読売ジャイアンツがソフトバンク・ホークスから買い入れてきた“使い回し”の杉内俊哉が、140キロそこそこのボールしか投げられないくせに、かつて堀内恒夫、藤田元司、桑田真澄といった「速球」投手が付けていた「栄光の背番号18」を背にしているところに「日本人投手の球速劣化」が象徴されているように思えます。そして、過去の日本のプロ野球の投手たちは「走り込み」を合言葉としていて、これによって体を作り、プロ入りしてから学生時代とは格段に違う球速を身につけていったのですから、かれらの投じていた「速球」はプロ入り後の「走り込み」による足腰の鍛錬の賜物だと言っても過言ではありません。身体の鍛錬不足の問題は、大相撲も日本プロ野球界も共通で「日本人投手の球速劣化は日本人横綱不在に通ず」という仮説が成り立つと思うのですが如何でしょうか。

投手が投手なら打者も打者
 読売ジャイアンツは外国人選手の“使い回し品”の買い入れも続けていて、今年も、これもメジャーリーガーとしての実績ほぼゼロのアメリカ人投手クリス・セドンを、それもなんと韓国プロ野球界から買い入れてきました。このセドンが日本プロ野球初登板となる広島カープ戦で、韓国プロ野球界でもすることができなかった15奪三振数という“怪挙”を演じた時、私の短絡思考回線がすぐさま働き、「日本人打者の身体能力は韓国人打者より劣っている」という仮説に達しました。そして、ここでも「走り込み」を中心とした身体の鍛練を怠っていることが日本人野手の身体能力低下の原因になっているのではないかと思い、すぐさま読売ジャイアンツの阿部慎之介の凋落ぶりを思い浮かべました。生まれついての頑健な身体に支えられて、捕手業という激務をこなしながら巧打者として活躍してきましたが、身体鍛練の不足は覆いようもなく、最近は故障しがちになり今や打撃力低下の兆しさえ見えてきました。阿部慎之介が「走り込み」の手(足?)を抜いているのは、その絞り切れていない体型や、大相撲の稀勢の里の四股とドッコイドッコイの不格好なオバサン走りを見れば一目瞭然です。そもそも、投手と違って日本プロ野球の野手については、イチローがメジャーリーグに進出して定着し、松井秀喜が一時活躍した以外は、揃って怪我や身体能力に低さを理由に日本プロ野球界に“返品”されてきているので、さしたる“国内空洞化”現象も起きていないではありませんか。投手以上に野手が「走り込み」を軽視している証のように見えます。

記憶にも記録にも残らない選手

 この「走り込み」を軽視しているのは、ON並みの天分に恵まれながら身体の鍛練不足が祟って怪我をしがちになった上に身体能力を向上させることができず「記憶にも記録にも残らない選手」のままで終わってしまいそうな読売ジャイアンツの高橋由伸の場合も同様のように思えます。下の表は、高橋由伸の入団後(X)年目の盗塁数を、長嶋茂雄と王貞治のそれぞれの入団後(X)年目の盗塁数と比較させたものです。長嶋茂雄は、晩年こそ盗塁数が減っていますが、入団当初は走り回って、走者としても溌剌たるところを見せていました。入団当初から若年寄然としているところのあった高橋由伸は、年間盗塁数で、長嶋茂雄ばかりでなく王貞治を凌いだことが1回もないのです。「盗塁実績は、間接的に“走ること”に対する執念と“走り込み”による身体鍛錬の程度を表す」という仮説が成立するならば、「日本プロ野球の野手の身体の能力と頑健さは、ON時代より大幅に低下している」、更に、「身体訓練の不足が祟って、日本のプロ野球界は記憶にも記録にも残らない選手ばかりになる」という仮説の正しさも検証されるのではないでしょうか。

入団( )年目
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
高橋由伸
3
3
5
3
1
3
1
1
1
1
長嶋茂雄
37
21
31
14
18
16
13
2
14
2
王 貞治
3
5
10
6
9
6
2
9
3
5

肝心なのは志の高さ

 日本プロ野球界の盟主である読売ジャイアンツも、同じセ・リーグのビンボー球団から、かつてペタジーニ、ラミレス、グライジンガー、ゴンザレス(ヤクルト・スワローズ)や村田修一(現DeNAベイスターズ)、そして今年の大竹寛(広島カープ)を買い入れて“使い回す”といったようなセコくてミットモナイことまでして「日本プロ野球界の横綱」の地位にしがみつこうとする志の低さを反省して、往時の正力松太郎オーナーが掲げていたような「メジャーリーグ級の球団作り」を目指したらどうでしょうか。表面的にはONばかりが目立っているV9時代ですが、陰では川上哲治監督が中日ドラゴンズ球団から招致してきた牧野茂コーチが、参謀役として「ドジャース戦法」を日本化して採り入れて選手を訓練しジャイアンツの足腰を強化していたんですよ。ON級の大砲を揃えただけではV9はおろかV1だってできるものではありませんよ。現に2003年には、既に在籍していた清原和博、江藤智、ロベルト・ペタジーニに、タフィ・ローズ(近鉄バファローズ)、小久保裕紀(当時ダイエーホークス)を加えた“使い回し他球団4番打者”を揃えた“史上最強打線”を金にあかせて編成しておきながら 結果はセ・リーグ3位にしかならなかったではありませんか。牧野茂コーチやONが実践していたような、足腰を鍛える地味にして堅実な“アヒルの水掻き”を無視して表面上の派手さばかりを求め続けているから、私のように熱烈なジャイアンツファンもアンチになってしまったのです。オーナーや監督が志を高くし直して、V9時代のようなクオリティの高い“横綱試合”を見せてくれるようになったなら、私も熱烈なジャイアンツファンに戻って“あげます”。それとも、現オーナーや現監督にこれを望むことができないのならいっそ他の企業に身売りしたっていいんですよ。幼い頃に“巨人ジャイアンツ”に慣れ親しんでいた私たちにとっては“読売”でなくてもいいんですから。球団の財力としては「日本の横綱」に違いありませんが所詮は新聞屋ですから資力は限られています。いっそ、今をときめくIT企業の「世界の横綱」に身売りし、「グーグル・ジャイアンツ」とか「マイクロソフト・ジャイアンツ」とかになってメジャーリーグに参画し、「世界の横綱」を目指してくれるようになったら万々歳だと思います。

日本の産業も「世界の横綱」から降格
 再びころりと話は変りますが、先日(4/19)、東芝時代に当時の若者たちの釣魚クラブ「釣魚隊」に加わって以来「顧問」として奉られていることもあって、久しぶりにその釣行会に参加しました。鶴見にある船宿まで行って船に乗ってシロギス釣りを楽しんだのですが、釣り場に向かう海上から見た東芝の「京浜事業所」の「TOSHIBA」のロゴマークは素敵でとても美しく見え、私が昭和38年入社直後の5月(無慮51年前!)に工場実習で通っていた「鶴見工場」のいかにも武骨なイメージは跡かたもなく消え失せていて、どの企業でも、3K(危険 汚い きつい)の職場の代表であった「工場」から、未婚の若き女性から希求されているという3高(高学歴 高収入 高身長)の職場寄りの「事業所」への移行を迫られつつある時代背景が感じられました。しかし一方では、東芝に限らず、Japan as No.1つまり「世界の横綱」として世界市場に製品を供給していた日本産業の強健な足腰となっていた工場の製造現場は今どうなってしまっているのかという疑念が湧いてきました。どうやら、プロスポーツ界だけではなくて日本の産業自体も、3K寄りのところで汗をかいて“アヒルの水掻き”をする努力することを忌避してきたために足腰が弱まってきてしまっているのではないかと今改めて思っています。現役の経営管理者や従業員の皆さんに美田を残すことができなかった不肖の先輩としては心苦しい限りですが、なんとしても足腰を鍛え直して再び日本製品を「世界の横綱」として押し出していってほしいと願っています。

万策尽くして日本人横綱誕生を
 さて、後10日あまりで、モンゴル人横綱トリオ初揃い踏みの大相撲夏場所が始まります。日本人横綱待望論がますます空虚なものになってきているのは残念なかぎりですが、いまはそれを嘆いてばかりいて良い時ではありません。このままでいくと「相撲はモンゴグルの国技である」とか「千秋楽には君が代ではなくてモンゴル国歌を唱和する」などといった議論が仮説どころか常識になりかねないからです。横綱審議委員会も含めて角界関係者は、「モンゴル人横綱を凌ぐほどの強靭な足腰を備えた“鍛錬これ無事”にして“無事これ名横綱”を日本人の中からどう誕生させるか」を喫緊の必達課題として、そのための具体的な方策を立案して推進してくださいな。革新的なアイデアは異質との交流から生まれると言われますから、他のスポーツ界で「世界の横綱」の地位を保っているフィギュアスケートの羽生結弦クンや浅田真央チャン、体操の内村航平クン、レスリングの吉田沙保里サンやその指導者たちから足腰の鍛え方や身体能力の向上のさせ方などについてコーチしてもらうのも良い方法かもしれません。あるいは、アメリカから輸入したQC(Quality Control)を日本化してTQC(Total Quality Control)に昇華することによって、日本製品を「世界の横綱」に押し上げた私たち不肖の先輩に見習って、モンゴル相撲の力士育成強化術を採り入れて日本化する手があるかもしれません。いずれにしても、恥も外聞もかなぐり捨て万策を尽くし“国力を挙げて”遮二無二日本人横綱を誕生させて、一日も早く『サンデーモーニング』の『週刊御意見番』で張本勲氏から「天晴れ」が出されますように。そう、張本さんも昭和15年5月生まれで我々と同期。我が家では、先日トレッキングシューズを新調した時に、「あと何回山歩きできるのかしら」なんてカミ様に言われてしまいましたが、古稀を過ぎれば“自分自身の賞味期限”が切実な問題になってきています。張本さんの目も我々の目も“黒いうちに”ぜひとも日本人横綱の誕生を見てみたい…切実なんですよ、こちとら。

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