映画の贈り物 - 憧憬篇 - Home



  2011.10.23     6組 榮 憲道

 洋画専門雑誌に『スクリーン』があり、総合雑誌に『映画の友』があった。             
 『エデンの東』、『ライムライト』、『静かなる男』、『禁じられた遊び』――。
 今もなお胸の奥に残る映画の数々と、それに連なる二つの出来事が印象深い。
 高校一年の秋、父の親友であった東京のMさん宅に厄介になった。東京見物を計画してくれたMさんの好意を断り、私は日比谷の名画座で西部劇の名作『シェーン』、そして翌日は、新宿コマ劇場で上映中のトッドAO方式によるミュージカル映画『オクラホマ!』の大画面を堪能した。
 今振り返ると相当失礼な行動であった。しかし私にとって《東京タワー》や《浅草》よりも、二度と見られないかも知れない映画のほうが大事に思えた。
 期末試験が終わり小田原中央劇場に向かった。お目当ては『胸に輝く星』。ヘンリー・フォンダの保安官が、助手になったアンソニー・パーキンスを一人前の保安官に仕上げてゆく地味な西部劇。同時上映は、ポーランドの鬼才アンジェイ・ワイダ監督の『地下水道』。レジスタンス運動の悲劇をドキュメンタリータッチで描いた秀作である。
 座席に座りしばらく経ったとき、すぐ斜め前の席に座っている一人の女学生に気がついた。
 《あれっ、よしこちゃん・・・》
 小学校六年間、共に学び共に遊んだ同級生である。
 くりくりとした瞳にちょっと上向きの可愛らしい鼻。歯と歯の間がすこし開いて、子リスを連想させる小ぶりな口元。細身でカモシカのような敏捷な身のこなし。小学校六年間、腕白生徒の憧れの的だった彼女ではないのか。
 映画の筋を追うのも落ち着かなくなってしまった。終映後声を掛けようかと考えたが、結局なんの行動も出来ないでただ見送るだけの自分だった。
 〜 〜 〜 〜
 春休みになった。
 私は蛮勇を奮い起こして隣部落にある彼女の家を訪ねた。同窓会を開く相談に来たことを告げ、一段落したそのあと、「アンソニー・パーキンスのファンなの?この前、中央劇場で『胸に輝く星』を観ていなかった?」
 「ええ、でも彼の映画より『地下水道』を観たかったの」
 なんと彼女は私に劣らぬ映画好きであった。十分のつもりが三十分、さらには二時間・・・話は弾んで夕闇さえ迫ってきた――。
 映画が私と彼女とを結びつけた。彼女との、楽しくもほろ苦い青春の数々が始まったのである。

                                      (2006年年12月作品)

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